京都という都市が魅せる美しい情景と、
それに負けず劣らないすばらしさをもつ日本画を重ね合わせた描写は、
コトバだけで、その華々しい様を目の前まえで感じさせられるよう。
しかし、それと同時に、人間がもつおぞましいともいえる信念や選択の連続に、恐ろしさも感じさせられる。
本書・異邦人はそんな、「美」と「醜」が表裏一体となった著書だと、自分は感じました。
著者情報
本書の著者、原田マハさんは、1962年に東京で生まれ、関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部美術史家を卒業。
その後、伊藤忠商事やいくつかの美術館勤務を経て、2002年に独立します。
そしてフリーランスのキュレーターとして活躍する中、2005年に「カフーを待ちわびて」という作品で第一回日本ラブストーリー大賞を受賞。
2012年には本書「楽園のカンヴァス」で第25回山本周五郎賞を受賞したお方です。
ちなみに「本日は、お日柄もよく」という本書とはちがう原田さんの著書を最近読んだんだけど、これがとても面白かったです!
ホントに面白い作品だったので、読んだことがないという方は読書感想だけでものぞいてみて下さい!
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異邦人のあらすじ
東日本大震災直後、東京に住む菜穂という女性は、原発が破壊されたことによる放射線の影響を心配し、一先ず家族の勧めで京都に避難することにした。
ひとりではなく、2人といったほうがいいのかもしれない。
というのも、菜穂は一輝という旦那との間にできた子どもを身ごもっていたからだ。
一輝は、自身の父親が立ち上げた美術品を売買する画廊の専務として働いている。
そして、菜穂の母親である克子は美術館を運営する館長だった。
つまり、一輝の大事なお客さんが克子であり、その繋がりから一輝と菜穂は出会い、結婚に至ったのだ。
菜穂も自身の母親とおなじ美術館の副館長をつとめるなど、美術にはとてもくわしい女性だった。
むしろ絵画や芸術に対する愛、また、将来芽を出すであろう才能ある若き画家を嗅ぎ分ける嗅覚は、母よりも優れたモノをもっていた。
そんなある日、菜穂は京都の老舗画廊で見た絵に、こころを奪われてしまう。
その絵を描いたのは、白根樹(しらねたつる)という、聞いたこともない新人だった。
京都に家族と1人はなれ住むことに不満をぶちまけていた菜穂。
しかし、このことを気に菜穂の苛立ちは消え去っていく。
京都にある美術品、京都という都市そのものがもつ芸術にのめり込むよう夢中になっていたからだ。
絵画はもちろん、茶道や書道、日本庭園や枝垂れ桜、そして紅葉や祇園祭。
考え直すと、街並み一つ切り取ってみても、京都には無数の美がそこいらに溢れている。
そのことに対して、菜穂は日に日に京都を愛するようになっていくのでした。
そんななか、東京にある一輝の会社と克子の美術館の経営が、震災の影響もあり徐々に難しくなっていく。
菜穂をひとり京都で暮らさせることは、もうできそうにない。
それどころか、克子と菜穂の運営する美術館は閉鎖し、数多くの美術品を売り出さなければいけないところまで来ていた。
美術品の中には、菜穂が愛してやまないモノもたくさんある。
当然、菜穂はこのことに反対するだろう。しかし、背に腹は変えられない。
真摯に話し合えば、きっと分かってくれるだろうと、克子と一輝は信じていた。
しかし、菜緒は首を縦に振らなかった。
というのも以前、もっとも価値のある絵であり菜穂がもっとも大切にしていた絵を一輝と克子は、菜穂に黙って勝手に売ってしまった経験がある。
だから菜穂は家族の会社が経営難におちいろうと、決して頷くことはなかった。
それどころか菜穂はこの状況、このタイミングで、ある1人の新人画家をプロデュースすることにする。
もちろん、その画家は白根樹という新人画家。
画家ひとりのパトロンになるというのは、それ相応の資金が必要になる。
お腹に子どもがいるなか、展示会をするにしても体力のいる厳しい選択であることに違いはない。
だが、菜穂の決心は固い。
なぜなら、そこには菜穂のみぞ知る、絡まり合った重大な秘密と事実があったからだ。
そんな菜穂を何とか食い止めようとする一輝と克子。
そして、京都に見せられ、京都で画家をデビューさせようとする菜穂。
本書は、そんな人間の悍ましいともいえる執念や想いを、日本きっての美を持つ京都を舞台に繰り広げる物語です。
異邦人
読書感想・書評まとめ
ゆったりとした感じではじまる本書は、終末をちらつかせたあたりから急にボルテージをあげ、展開が加速していく。
例えるならフルマラソンの35キロ地点からは全力疾走で、そこに至るまでは力を抜きつつ、要所となる関所だけは力強く走りきるような。
ですから読後感は、小説らしいおちがあったこともあり、とても良かったです。
また、自分が本書をよんで特に変わったのは、京都に対するイメージです。
もちろん、異邦人は創作であることに違いはないのだが、それでも、です。
たとえば、「一見さんお断り」という、誰もが耳にしたことのあるこのコトバ。
誰かを介さないと入ることができない敷居の高さをあらわしたこのコトバも、
本書を読む前と後では、また違った感覚を味わうことになる。
というのも、京都に住む人にとって、京都と京都以外は別物なのだ。
そのような思考をベースに描かれている作中の京都は、鉛のように重い扉で固く閉ざし、締め切ったかのような閉鎖感が充満している町のようにじぶんは見えました。
その一方で、一度できた繋がり、絆は世代を超えても大切にする人情味溢れる人たちが住む町というのも、京都という特殊な都市の特徴なのかなと考えさせられました。
そして、狂おしいほどに美術を愛してやまない菜穂には、意志の強さや信念を持つ生き方に惚れ惚れさせられた。
しかし、自分の信念の為にそこまでするのかと自分におきかえ考え見ると、どうじにある種の怖さも感じた。
ぼくはそこまで執念深くはなれない。もちろん、自分の叶えたいことは叶えていきたい。
だけど、それも自分の場合は家族ありきで、ここまで徹しきることは自分には合っていないと率直に感じました。
どちらにせよ、ヒトを惹き付ける主人公ではあったのは間違いないです。
最後に、作中を通し一貫してよかったのは、何気ない街並みや季節ごとにみられる木々の変化、そして祇園祭など、京都という美しい背景を常に感じさせられる風景描写です。
そして、その美しい京都という土台に重ね合わせるように語られる芸術品の数々を描いたコトバは、
京都という美、芸術という美に興味を持たざるを得ないほど、ヒトの好奇心をくすぐる文章でした。
日本画や芸術品、また京都に興味があるひとは、本書をよんでみると良い。
きっと、何かを感じられるはずですから。
それでは、また!
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